2017年07月19日
なりはてたとき

どこされた台座にいた燐光を放つ裸形のものが、ふくみ笑いをしながらつづき、さらにはるか後方では、色浅黒い男たちと、あまりにも忌《いま》わしい恐るべきものどものすべてが息をあえがせていた。あとを追ってくるものどもとの距離を広げていく死体は、何か明確な目標を定めているらしく、腐れはてた筋肉のすべてを彫刻のほどこされた黄金の台座にむけてひきしめているからには、どうやらその台座こそ死体蘇生の妖術において重要きわまりないもののようだった靜脈曲張按摩療法加以補氣活血、清熱化濕為主的中藥輔助。
次の瞬間、死体が目標に達しようとしたとき、あとにつづくものどもはやっきになってさらに足を早めたが、もう手遅れだった。最後の力をふりしぼって突進し、そのあまりに腱《けん》という腱が裂け、ゼリーが溶けるような状態のまま有害な巨体を床でもがかせながらも、かつてロバート・サイダムであった凝視する死体は、ついに目標に達し、勝利をおさめたのだった。台座を押すには途轍《とてつ》もない力を要したが、死体の体力はこれによくもちこたえ、死体が崩れて腐敗するどろどろの塊《かたまり》に、死体に押された台座がぐらつき、かしぎ、ついには縞瑪瑙《しまめのう》の基部から離れてその下のどんよりした海中に落ち、彫刻のほどこされた黄金の輝きを放ちながら、思いもよらぬ遙かなタルタロスの深淵へと重たげに沈みこんでいった。その瞬間、マロウンの眼前では恐怖の情景全体も無に帰してしまい、邪悪な宇宙すべてを破壊するようなすさまじい轟音《ごうおん》の只中で、マロウンは意識を失った王賜豪醫生。
海上でのサイダムの死と死体の引き渡しを知るまえにマロウンが十分に体験した夢は、事件にまつわる異様な事実の一部によって奇妙にも補われているが、そうだからといってマロウンの夢を信用すべき理由は何もない。パーカー・プレイスの三軒の古い家屋は、明らかにまったく目につかない形でかなり以前から腐朽が進行していて、警官の半数と逮捕者の大半がなかにいるあいだに、さしたる原因もなく倒壊してしまい、たちまちのうちに警官と逮捕者の双方に多数の死者をだしたのだった。半地下と地下室でだけ、かなりの生命が救われ、マロウンは幸運にもロバート・サイダムの住居の地下深くにいたのだった。マロウンが実際にそこにいたことについては、否定しようとする者もいない。意識を失っているマロウンが発見されたのは、夜のように黒ぐろとした池のほとりで、数フィート離れたところには恐ろしくもグロテスクに散乱する腐敗物と骨があって、後に歯並びからサイダムの亡骸《なきがら》であると確認された。密入国した者たちの利用する地下運河がこの池に通じているため、事件その
Posted by 風に吹かれて at 12:21│Comments(0)